連載 新しい事業のつくり方
新しい事業のつくり方 第2回 強い事業を作るために必要な3つのインフラ

1. はじめに
今回は、強い事業を作るために必要となる3つのインフラについてお話をしていきたいと思います。
なお、今回の連載においては、「サービス」を中心としたビジネスに関する事業を立ち上げることを主な対象として想定しています。メーカーや製造業のように、「物」としての商品を作るビジネスについては、これからお話する3つのインフラに加えて、工場や生産設備といったインフラが必要となる点には、注意して頂ければと思います。
さらに、念のためですが、筆者からお話する内容は、あくまでも個人としての意見・見解であり、過去に所属した組織の見解やノウハウを記載するものではありません。また、内容としても、必ずしも網羅的で完全性を有するものではありません。
2. 3つのインフラに関する概要
強い事業を作るために必要なインフラというのは、システム(コンピューターシステム)、オペレーション(人手でのオペレーション)、契約の3つです。
【3つのインフラ】
- ①システム(コンピューターシステム)
- ②オペレーション(人手による作業)
- ③契約(契約書)
上記のうち、システムというのは、「コンピューターシステム」のことを指します。具体的には、ランディングページ(広告用ホームページ)、申込受付システム、料金決済のためのシステム等がこれに当たります。
オペレーションというのは、「人手による作業」のことを指します。費用面・技術面等からシステム化できず、人手で行う作業のことをいい、具体例には、サービス利用者の審査(自動化されていない場合)、電話やメールでのカスタマーサポート、商品の発送・配送作業等がこれに当たります。
契約というのは、文字通り、顧客(サービス利用者)や委託先など、社外のステークホルダーと締結する契約(契約書)を指します。具体例には、利用規約、プライバシーポリシー、委託先との業務委託契約(システム開発、サーバーレンタル、保守運用、デザイン制作等)等がこれに当たります。
3. システムとオペレーション
現代のIT(情報通信技術)を利用したサービスでは、システムとオペレーションが組み合わされて、自社のサービスが構築されており、どちらが主になり、どちらが従となるのかは、業態やサービス内容によって決まることになります。
例えば、ECサイトのようなサービスであれば、一般的には、営業活動(インターネット上での広告)、顧客からの申込の受付と契約(売買契約)の締結、売買代金の決済等については、システム化されており、商品の発送(amazon.comなどでは、これも大部分はシステム化(自動化)されつつあるという話も聞きます)については、人手でのオペレーションによって実行されているかと思います。
他方で、飲食店などのサービスにおいては、対面での業務提供が主流で、注文の受付、調理、配膳、レジでの代金の決済等については、基本的に人手でのオペレーションによって実行されていますが、最近では、タブレット端末等での注文の受付やキャッシュレスでの決済等、一部のプロセスについて、システム化(自動化)の動きが見られるようになってきています。
なお、最近では、ECサイト経由の物販における商品の発送や飲食店における配膳など、ロボットを使って自動化されているプロセスもあり、そのようなケースでは、当該プロセスが、システムとオペレーションのどちらに分類されるべきであるのか、という問題があります。
ここでいうオペレーションは、あくまでも「人手での作業」を想定したものなので、ロボット、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)、AI(人工知能)など、人手以外の手段によってサービスが提供されているものは、基本的に、システムに分類して見ていくことにしたいと思います。
また、システム化を実施したとしても、全てが自動化できる訳ではなく、システムを安定的に動かしていくには、人手による保守・運用や修理・メンテナンスを実施する必要があります。これらの人手による作業は、システムの稼働に付随するものですので、これもシステムに含めて見ていきたいと思います。
4. 契約の重要性
筆者がこれまで法務の仕事をしてきたからということもありますが、ITビジネス、金融ビジネス等の「サービス業」において、契約は、極めて重要なビジネスのインフラであると考えられます。
即ち、サービスとしての事業を行う際には、ステークホルダー(顧客、取引先、その他利害関係者)との間で、何らかの関係性を構築して取引(サービスと金銭の交換)を行うことになり、自社とステークホルダーとの間で、どのような条件でどのような関係を作っていくのかを決めるのが、契約になります。
この点は、伝統的に見ても、欧米での金融業の発展は、顧客と金融業者の取引条件を規定した契約の発展と不可欠のものであったといえます。例えば、古くは、十字軍によるエルサレムへの遠征に伴い、故郷に残された家族のために財産管理を行うための仕組みとして、「信託」が生まれました。
また、大航海時代にアメリカ大陸、アジアへの航海にかかるリスクをヘッジする仕組みとしてロンドンのロイズというコーヒーショップにおいて「損害保険(海上保険)」が発展しました。
極論をいえば、西欧の近代文明における産業の発展は、科学技術と金融の発展によりもたらされたものであり、金融の発展の歴史は、契約の発展の歴史に他なりません。
さらに、現代においてビジネスがIT化していくにつれ、自社とステークホルダーとの関係をどうように位置づけるのか、自由度が増しており、契約は、さらに重要なものになってきていると考えられます。
即ち、これまで人手を使って対面で行っていたことが、IT(情報通信技術)を使って、データの送信と受信によって行うことができるようになると、果たして、そのデータの送信と受信で行っている行為は何であるのかを、改めて定義する必要性が出てくることになります。
例えば、これまで、商店で商品を持ってレジに行き、お金を払えば、何も言わずとも「売買契約」が締結されることは明らかでした。しかしながら、ECサイトで商品を販売するためには、「買います」、「売ります」、という意思表示は、単なるデータの送受信によって実行されることになります。このため、予め利用規約を定め、こういう方法でデータの送受信が行われると、この時点で、誰と誰の間で「売買契約」が締結されるのか、明確に定義しておく必要が出てくることになります。
さらに、契約は、当事者間における取引の条件を定めるだけでなく、自社やステークホルダーにおいて会計処理や税務処理を行う際に基礎となる資料となります。
したがって、現代のIT化されたビジネスにおいては、契約は、ビジネスを補完するものではなく、むしろビジネスのインフラ(本質的な要素)であるといっても過言ではありません。
5. まとめ
以上のように、今回は、事業を行うために必要となる3つのインフラについて、概要を見ていました。次回以降、3つのインフラについて、一つずつ取り上げて中身を見ていきたいと思います。
なお、金融事業など、一定の事業については、上記3つに加えて、行政からの許認可等が必要となります。ただし、許認可を取得する際にも、少なくともこの3つのものが揃っていることが前提となりますので、事業に必要なインフラとしては、まずは、この3つを中心に考えていきたいと思います。